母と子の漢方
命のバトンのリレー ―次のお子さんが生まれるお母さんへー
命のバトンのリレー
-次のお子さんが生まれるお母さんへ-
昔はこどもだった、今の大人の方たちへ
鯨岡 峻の著作からの抜粋で、短い物語りですが
読んでくださいね
〈育てられる者〉から〈育てる者〉への世代間伝達
鯨岡 峻
ある保育士さんのショートショートです。
原文をそのまま掲載します。
エピソード1:弟をたたくMちゃん
<背景> Mちゃんは2歳の女児である。1ヶ月前に弟が生まれた。
Mちゃんは「赤ちゃんが生まれたよ」と何度もうれしそうに話したり、
それまでは小さいクラスの子どもに関心を示さなかったのに、自分から声をかけ、
手を繋いで歩いてあげたりする姿も見られるようになり、弟が生まれたことをうれしく思っているんだなと感じられた。
その一方で、時々不意に心細そうな表情を見せたり、急に甘えて来たりすることもあり、
やはり不安もあるのだろうと思われた。
弟が生まれてちょうど1ヶ月経ち、母が初めて弟を連れてMちゃんを送ってきた朝の出来事である。
<エピソード> 朝の登園時間、私が保育室で受け入れをしていると、Mちゃんが一人で部屋に入ってきた。
「Mちゃん、おはよう」と声をかけMちゃんの後ろを見ると、お母さんが赤ちゃんを抱っこして入ってきた。
「わあ、お母さん久しぶり、おめでとう。赤ちゃん見せて」と言って駆け寄ると、
他の保育士も周りの子ども達も皆が一斉に集まってきた。
お母さんが皆に見えるように赤ちゃんを抱いたまましゃがんでくれたので「わあ、かわいい」と皆はお母さんと赤ちゃんを取り囲んだ。
しばらくの間、皆が赤ちゃんに注目し、赤ちゃんの話題で盛り上がっていた。
Mちゃんは返却するために持ってきた絵本を手に持って、赤ちゃんの足下の位置に立っていたが、
その絵本で赤ちゃんの足の辺りをおくるみの上からポンポンと叩き始めた。
それは痛くしようとしているわけでもないが好意的でもない、微妙な感じの叩きかただった。
お母さんは怒るわけではなく、優しい口調で「痛い痛いよ、やめてね」とさらっと言ったがMちゃんは止める様子がなかった。
強い叩き方でもなく、一見Mちゃんが意識的にしているようにも見えなかったので、
それ以上は誰も何も言わず、また赤ちゃんの話題に戻っていった。
ふとMちゃんの顔を見ると半分怒ったような、半分寂しそうな何とも言えない表情をしている。
「かわいい、かわいい」と赤ちゃんのことばかり言っていた私はMちゃんの表情にハッとした。
そしてMちゃんを抱き寄せて「赤ちゃんかわいいね。Mちゃんみたいにかわいいね」と言った。
Mちゃんはにっこり笑って頷くと「これ読んで」と持っていた絵本を差し出した。
私は赤ちゃんを囲む輪から離れMちゃんに絵本を読んであげた。