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ノーベル化学賞に思う ~みんなが飲んでいるサプリのプロテインは本当は苦い~
ノーベル化学賞に思う ~みんなが飲んでいるサプリのプロテインは本当は苦い~
こんにちは。院長の高橋です。
科学界から大変嬉しいニュースが飛び込んできました。
日本の硤合憲三(そうあい・けんぞう)名誉教授らがノーベル化学賞を受賞されました。
授賞理由は「不斉(ふせい)自己触媒作用の発見」。
少し難しい言葉ですが、実はこのニュース、
私たちの身近な「食」や「健康」、
そして日々患者さんにお話ししている「身体の仕組み」の根本に深く繋がっています。
今日はこの大ニュースに寄せて、
少し不思議な「アミノ酸の味のヒミツ」についてお話します。
プロテインやBCAAが「甘くて美味しい」の嘘
健康維持や筋力アップのために、プロテインやBCAA(分岐鎖アミノ酸)のサプリメントを飲んでいる方は多いのではないでしょうか。
「グレープフルーツ味」や「青リンゴ味」など、
ジュースのように甘くて飲みきりやすいものが主流ですよね。
しかし、医師の視点から事実をお伝えすると、
「アミノ酸本来の味は、本当はめちゃくちゃ苦い」のです。
特に筋肉のエネルギー源となるBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)といった
必須アミノ酸は、その分子構造の特性上、
人間の舌にある苦味センサーを強烈に刺激します。
本来なら「ウッ」となるほど苦い味なのです。
では、なぜ市販のサプリメントがあれほど甘くて美味しいのかというと、
人工甘味料や香料を絶妙なバランスで配合し、
本来の強い苦味をマスキング(目隠し)しているからです。
「アミノ酸=旨味」ではない?
アミノ酸というと、昆布の「グルタミン酸」のような
「旨味」をイメージされるかもしれません。
しかし、アミノ酸の味は種類によって全く異なります。
例えば、最も単純な構造を持つ「グリシン」というアミノ酸は、
砂糖のような優しい「甘味」を持っています。
その名前自体も、ギリシャ語で「甘い」を意味する言葉が語源です。
このように、アミノ酸は「形」や「大きさ」の違いによって、
甘かったり、苦かったり、旨味を持っていたりします。
人間の舌にある味覚センサーは、分子の「立体的な形」を鍵穴のように認識して、
脳に「甘い」「苦い」という信号を送っているのです。
生命の謎「右利きと左利き」
ここから話は一気に、今回のノーベル賞の世界へと繋がります。
実はアミノ酸には、右手と左手のように「鏡写し」の構造を持った
双子の分子が存在します。
これを「L型(左手)」と「D型(右手)」と呼びます。
不思議なことに、地球上のすべての生物のタンパク質は、
すべて「L型」のアミノ酸だけで組み立てられています。
同じアミノ酸でも、形がひっくり返った「D型」になると、
人間の舌のセンサーへのハマり方が変わるため、味の劇的な大逆転が起こります。
通常は「苦い」はずの必須アミノ酸が、
D型になると「砂糖の数十倍も甘い物質」に変わったりするのです。
私たちの身体の中では、この「ミクロの分子の左右の偏り」が、
胎児のときの心臓の正しい配置(Dループ形成)にまで影響を与えています。
生命は、このわずかな「左右の非対称性」をベースにして精巧にデザインされています。
硤合先生が解き明かした、宇宙の奇跡
化学の世界では、普通にアミノ酸を合成すると、
L型とD型が半分半分(50%ずつ)混ざったものが出来上がってしまいます。
では、なぜ地球の原始の生命は「L型だけ」を選び取り、
100%にまで増やすことができたのか?
これは長年、生命科学最大のミッシングリンク(謎)でした。
この謎に決定的な答えを与えたのが、今回ノーベル賞を受賞された硤合先生です。
先生は、「ごくわずかな、目に見えないほどの『偏りの種』があれば、
それが自分と同じ形の分子を爆発的にコピーして増やしていく(不斉自己触媒作用)」
という驚くべき現象を発見されました。
最初は1億分の1のわずかな傾きだったものが、
時間の流れとともにうねりを上げて増幅し、やがて100%へと相転移していく――。
私たちが毎日何気なく飲んでいるプロテインの苦味や甘味の裏には、
宇宙の始まりから生命の誕生へと至る、壮大な「流れの力学」が隠されているのです。
一見、難しく見える最先端の科学も、
私たちの細胞一つひとつ、そして毎日の健康と確かに地続きで繋がっています。
今夜は、生命の神秘に満ちたミクロの世界に、静かに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
最後になりますが、
生命の根源的な美しさを世界に証明してくださった硤合氏、日本人受賞本当におめでとうございます。
