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不機嫌な青りんごたち(不登校・発達障害シリーズ)
診察室のドアが開き、ドスドスと足音を立てて入ってくる10代の少年。
椅子に深く腰掛け、腕を組み、ぷいっと横を向く。
こちらが「こんにちは」と声をかけても、
返ってくるのは「チッ」という舌打ちか、あるいは沈黙。
いわゆる「不機嫌」のオーラを全身から撒き散らしている子どもたちです。
不登校や発達障害の傾向があるお子さんを持つ親御さんから、
多く受ける相談のひとつ。
「家でずっと不機嫌なんです」
「話しかけても無視するか、部屋に閉じこもるか。腫れ物に触るようです」
彼らはなぜ、これほどまでに「不機嫌」という武器を振り回すのでしょうか。
結論から言うと、
不機嫌とは、究極の「コミュニケーションのサボり(面倒くさがり)」です。
そして同時に、そうせざるを得ない「脳のキャパシティの限界」の悲鳴でもあります。
まだ熟しきっていない、渋くて酸っぱい「青りんご」のような彼らの内面を、
少し専門的な脳の仕組み(知能指標)から紐解いてみましょう。
「言葉にするコスト」をサボる心理
自分のなかのモヤモヤやイライラを言葉にするには、
実は膨大なエネルギーが必要です。
- 自分の感情を客観的に見つめ(メタ認知)
- 適切な言葉を脳内から探し出し(語彙力)
- 相手に伝わるように論理を組み立てる。
不機嫌という態度をとる時、
子どもたちはこの「言語化のコスト」を完全に放棄しています。
態度で示すことで、
「僕がなぜ怒っているのか、お前らが考えて、お前らが気を遣って機嫌を直せ」と、
解読の責任を周囲に丸投げしているのです。
これは心理学的には、幼児期特有の「未熟な自己愛(甘え)」そのものです。
しかし、なぜ発達障害や不登校の子どもたちに、
この「不機嫌な青りんご」がこれほど多いのでしょうか。
彼らが特別、我が儘だからなのでしょうか?
実は、ここには「脳の特性」が深く絡んでいます。
不機嫌の裏にある、脳の3つの限界
心理検査(WAISやWISC)の指標で見ると、
彼らの「言語化できない苦しさ」がよく見えてきます。
① 言葉の引き出しが足りない(VCIの弱さ)
自分の心の中にある
複雑な葛藤や不安にぴったり合う言葉が見つからない特性です。
語彙や論理が追いつかないため、
悔しさも悲しさもすべて「ムカつく」という一言に集約されてしまい、
伝わらないもどかしさから、手っ取り早い「不機嫌」に逃げてしまいます。
② 抽象化して整理できない(PRIの弱さ)
「要するに自分は何に困っているのか」を、
レイヤー(視点)を上げて整理する力が弱い特性です。
「あの時こう言われた」「これが嫌だった」という
目先の点(エピソード)ばかりが頭の中で散らかり、問題の本質を説明できません。
脳がパンクして「もういい!」とシャットダウンするのです。
③ 脳のメモ帳が満杯(WMIの弱さ)
感情が高ぶると、
それだけで脳の作業スペース(ワーキングメモリ)が占拠されてしまう特性です。
相手と言葉をキャッチボールする余裕が1ミリも残っていないため、
対話を続けること自体が激しい疲弊を伴います。
結果、コストゼロで自分を守れる「不機嫌」という防衛策をとるしかなくなります。
酸っぱい青りんごが、やがて熟すために
「どうせ言ってもわからない」と周囲を見下しているように見える不機嫌。
その傲慢さの裏には、
「自分は正しいはずなのに、上手く説明できない」という、
傷つきやすい自己愛の危機が隠れています。
彼らは、意地悪で不機嫌なのではありません。
言葉という道具を使いこなす体力がなくて、腹を立てているのです。
もし、ご家庭に「不機嫌な青りんご」がいたら、
親御さんがその不機嫌を解読してあげる(機嫌をとってあげる)必要はありません。
それは彼らの「甘え」を強化してしまいます。
代わりに、彼らの脳のコストを少しだけ肩代わりしてあげてください。
「言葉にするのが、今はめんどくさいくらい疲れちゃってるんだね」
「落ち着いたら、何があったか単語だけでも教えてね」
淡々と、しかし突き放さずに待つこと。
彼らが自分の力で「不機嫌」を「言葉」に変えられたとき、
青りんごは少しずつ、大人の味へと熟していくはずです。
兵庫県立美術館、建築家安藤忠雄